良いエンジンオイルの定義とは
良いエンジンオイルとは何でしょうか?
答えは、6つの働きがバランスが良いエンジンオイルのことです。
1. 潤滑
2. 密封
3. 冷却
4. 緩衝
5. 防錆
6. 清浄
エンジンオイルの働きと言えば、ピストンやクランクシャフトを滑らかに動かす作用の「1.潤滑」がまず思い浮かびます。
金属の表面に油の膜を作って、金属同士の滑りをよくし、摩擦を減らし摩擦が減ると、摩耗も防止します。
エンジンオイルは同時に燃焼ガスがエンジン内部に漏れないように、ピストンとシリンダーとの隙間を埋める、密封の役目をしたり、金属同士がぶつかった時の衝撃を吸収することで、メカノイズ(カタカタ等の音)を和らげる役目をしたり、エンジンの中に汚れがたまらない様に掃除もしています。
6つの働きをここでは詳しく説明していきたいと思います。
エンジンオイルの6つの働き
1. 潤滑
エンジンオイルの働きで、一番に思いつく大事な事。
だれでも、エンジンオイルを選ぶとき、潤滑性を気にします。
潤滑性はベースオイルで決まると思っていませんか?
化学合成オイルは確かに鉱物オイルよりも高い潤滑性があります。ですが、それだけでは役不足です。
なぜなら、潤滑には2つの潤滑があるからです。
流体潤滑と境界潤滑
クランクシャフトは流体潤滑です。
オイルの圧力でクランクシャフトは油中に浮かんだ状態となります。
この状態は化学合成オイルでも鉱物オイルでも油中に浮いているので、ベースオイルの影響はあまり受けないんですよ。
ピストンとシリンダーとの間。
正確にいうと、ピストンリングとシリンダーは接しています。
リングとシリンダー壁の間にはオイルは無い状態ですが、焼き付くことがありません。
このオイルが無い状態でも潤滑させて、焼き付きを防止するのが添加剤の役目だからです。
化学合成オイルが高性能なのは間違いないのですが、境界潤滑を支えるのは、添加剤の役目なのです。
どんなに良いベースオイルを使っても、添加剤の質が悪ければ、オイルとしての品質は保てないことになります。
2. 密封
ピストンとシリンダーとの間には、必ず隙間があります。
この隙間が無いと、ピストンがスムーズに動かないからです。
ですが、隙間が大きすぎると、燃焼したガスの圧力が抜けてしまい、パワーダウンを起こしてしまいます。
ピストン、シリンダーの隙間に油の膜をつくると、燃焼ガスは漏れなくなり、パワーダウンを防ぐことができるのです。
これがエンジンオイルの密封する働きです。
しかし、この密封性は、オイルの作り方でまったく異なる特性を示します。
通常のオイルは、ポリマー(増粘剤)で粘度を作り上げます。
粘度とは油膜の厚みと思ってもいいでしょう。
水に片栗粉を入れると、ドロドロになるのと同じです。ドロドロにすることで、隙間を埋める油膜の厚みをつくっているわけです。
ところが、このポリマー(増粘剤)は熱に弱く、せん断(豚肉ブロックがあるとすれば、ミンチにしてしまい、分子がバラバラになるということ)に弱いのです。
すると、10W-40だったオイルは10W-30になっちゃうわけ。
油膜の厚みが薄くなると、隙間を埋める事が出来なくなり、パワーダウンになってしまいます。
場合によっては、白煙・オイル消費になるのです。
こうならない為には、ポリマー(増粘剤)を使ってない製法のオイルを使うこと。
ノンポリマーという製法です。
ノンポリマーは熱に強く、せん断にも強いため、密封性が大きく向上します。
数千キロも走ると、オイルが黒くなりませんか?
フィーリングが悪くなりませんか?
燃費が落ちてきませんか?
それはポリマーが劣化したからです。
3. 冷却
エンジンは常に熱を発生させています。
燃焼室の温度は実に2000℃を超えます。
イラストは、エンジン内部の温度を示しています。
元エンジンチューナ―の意見としては、燃焼室の温度コントロールが大事なんですよ。
ピストンは600℃で溶けます。
2000℃の温度でも溶けないのは、ピストンの表面に熱境界層が出来ていて、その境界層が熱から守ってくれているわけ。
でも燃焼室の温度が上がりすぎると、プラグが点火するよりも先に、燃料が燃え始める、異常燃焼が起きるんですよ。
これが発生すると、ノッキングという症状が出始め、それが酷くなると異常燃焼となり、最悪はデトネーション(爆轟ばくごう)と呼ばれる、超音速燃焼が起きます。
デトネーションは燃焼ではなく、爆発なので、衝撃波を伴いますから、熱境界層を吹き飛ばし、アルミは溶けて穴があいたり、砕けたりします。
これを防止するものオイルの役目。
オイルがピストンの下から吹き付けられて、ピストンを冷やします。
そして燃焼室の温度も下げることにつながります。
エンジンヘッドもオイルが循環することで、エンジンの熱を吸収してくれます。
これが冷却です。
しかし化学合成オイルはこの冷却は鉱物オイルと比較して劣るんですよね。
4. 緩衝
金属同士がぶつかった時に、衝撃を吸収する役目をします。
先ほど通常のオイルの作り方とノンポリマー製法の違いを説明しましたが、油膜が厚いほど、緩衝性は高いのです。
同じ10W-30であったら、通常製法の10W-30とノンポリマーの10W-30ではノンポリマー製法の10W-30の方が緩衝性は非常に高いと言っても過言ではないでしょう。
5. 防錆
さびを防止する能力は、定期的に交換さえしていれば、どのメーカーでも差はありません。
6. 清浄
「良いオイルほどエンジンの汚れを取るので汚れる」と聞いたことありませんか?
実は違います。なぜならば、新車を考えてみましょう。
新車のエンジンは汚れていませんよね?
なのに、数千キロも走ると、真っ黒になるのでしょうか?
エンジンの汚れを取っているから?でも新車ですよ?
そう。汚れを取っているのではありません。
先ほどポリマー(増粘剤)は熱に弱く、せん断に弱いと説明しました。
オイルが汚れる理由は3つです。
1. ポリマーの劣化
ポリマーは熱に弱く、せん断に弱い。
ポリマーは劣化すると、黒くなる性質があります。
2. ブローバイガスの混入
ブローバイガスとは、燃焼ガスがピストンとシリンダーの隙間を吹き抜けてくるガスのこと。
ガスにはオイルが燃えた燃えカス、ガソリンの燃えカスが含まれるので、黒くなってしまいます。
3. エンジン内部のスラッジが溶けだす
この3つ目のスラッジと言われる、エンジン内部に蓄積された汚れを取っていると思い込んでいる人が非常に多いのです。
確かに落ちてはいますがその量は少しずつです。
一気にエンジン内部を綺麗に洗浄しているのではありません。
時間の流れをいうならば、2年や3年かかるわけです。
洗浄力が強いというものは3年かかる時間が2年ぐらいになる。
ゆっくりとした時間が必要で、即効性は無いのです。
もし即効性があったとしたらどうなるのか?
スラッジが塊でおちてしまうと、オイルの吸い込み口を塞いでしまい、オイルが流れなくなってしまい、エンジンは焼き付きます。
こうなってしまうと、オイルメーカー、添加剤メーカーの責任になってしまいます。これを防ぐには、ゆっくりと溶かしていくしか方法はないのです。
清浄性は汚れを分解して油中に浮遊させることが目的です。
浮遊させることで、次回のオイル交換時に全量を排出させるためです。
これらがエンジンオイルの働きです。
オイルの作り方でもオイルの働きが大きく違うのが、ご理解いただけましたでしょうか?
化学合成オイルが高性能なのは間違いないのですが、配合される添加剤の質。
製造方法によっては、化学合成オイルよりも鉱物オイルの方が勝ることは簡単なのです。