バイクエンジンの構造
シリンダーヘッドの構造
重要なエンジンヘッド バルブ周りの構造
コッターピン
コッターピンはバルブステムを固定する役目をする。以外に軽視されがちですが、このピンの部分に熱が加わると、固着してしまう事がよくあるので、大変重要な部分です。固着してなぜ悪いのか?というと、バルブは上下に動くだけでなく、回転もしています。回転が無くなると、バルブシートに段付きがでたりして、エンジンの寿命を短くしてしまいます。良質のエンジンオイルを使わないと、この部分が固着しやすいものです。チューンする際は、このコッターピンの重さも合わせましょう。
リテーナー
リテーナーとはバルブスプリングとステムを固定すつためのもの。単に固定しているだけのようですが、このリテーナーの重さがバルブの動きを変えます。重たい物を上下に動かすよりも、軽いものを上下に動かした方が動きが良くなりますから、リテーナーには「チタン製」のものもあり、製造メーカーにより重さが異なります。軽ければ良いというものでもなく、エンジンの特性に合わせたリテーナーを選ぶ必要もあります。チューンする際は、このリテーナーの重さも合わせましょう。
バルブスプリング
バルブスプリングは等間隔の「ピッチ」(隙間)ではありません。等間隔にすると共振を起こし、バルブサージングを起こしてしてしまうからです。エンジンによっては、ダブルスプリングといって、スプリングの中に小さいスプリングを入れ二重にスプリングを使っているものあります。これにより、バルブサージングを防いでいます。このスプリングも使っていくうちに、バネレートも変化してきます。つまり、新品よりもバネの強さが弱くなってくるということ。チューンする際は、新品を入れるよりも中古で同じスプリングレートに合わせた方が良い場合もあります。強化スプリングは抵抗を増やすだけなので、ノーマルを使った方が良い結果が出る場合もあります。ノーマルカムに強化スプリングをすることは、私個人としてはあまりお勧めしないですね。チューンする際は、スプリングレートを合わせましょう
バルブシール
バルブガイドとバルブステムの隙間からオイルが入ってこないようにゴムシールがしています。これをバルブシールといいます。この部分が経年劣化すると、ここからオイルが入り込み、白煙の原因になります。
バルブガイド
バルブステムがスムーズに上下出来るようにするものがバルブガイドです。バルブガイドとバルブステムの隙間は、およそインテーク 0.025-0.055mm エキゾースト 0.050-0.080と非常にシビアです。この隙間が大きくなると、バルブが上下に動く時に、振れが発生し、異音がでたり、パワーダウンになります。振れが発生すると、オイル下がりの原因にもなります。通常ブロンズ(青銅)で出来ています。チューンドエンジンの場合、この部分にもノウハウがあります。
バルブスプリングシート
バルブスプリングシートの厚みが変わる事で、スプリングの縮む量が変化するので、厚みも厳重に管理が必要です。バルブスプリングの台座となります。
バルブステム
バルブステム部分はバルブの棒に当たる部分。摩耗をマイクロメーターで確認すること。バルブガイドとのクリアランスに影響します。
バルブフェース
フェースはバルブシートと当たる部分。粗悪なガソリンを使うと、フェース部分に段付き摩耗が発生しやすい。ガソリンには、添加剤が配合されていて、この添加剤の質が悪いと、インテーク側のバルブ及び、バルブシートに段付き摩耗が起きてしまう。ガソリン価格が高騰している中、安いガソリンを求めるのは心理ですが、安いものは安いなりの理由があることを理解して欲しい。ガソリンはどれも同じではありません。
バルブシート
エキゾーストバルブの当たり面にはバルブに出来た無数の穴が同じように開いているのがわかる。これは質の悪いエンジンオイルを使うとこのような事が起きる。エンジンオイルには添加剤が配合されていて、その添加剤がエキゾースト側のバルブシートを保護する。ケンドールはバルブシートも保護いたします。
カムシャフト
画像のものは、わかりやすいように自動車のカムでの比較。左ノーマルカム。右社外カムカムの高さは実は同じ。右側が左よりも丸く太くなっているのがわかると思います。カムプロフィールがリフト量よりも実は重要。ハイカムにすれば、パワーは出る物の、ピーキーで扱いにくくなる。大切なのは、バルブが開いている時間。開いている時間が長ければ、吸気をする時間が長くなり、より吸入量も増える。排気はノーマルのタイミングより少し遅らせることで、燃焼時間を長くすると、排気温度が下がる。よって車のエンジンではカムプーリーを使ってバルブタイミングを変化させる。一流のプロメカニックになると、カムを手作業で削りタイミングをずらし、狙ったエンジン仕様を作る。
吸気ポートはポート形状を曲げる事で、タンブル流を発生させ燃焼効率を向上させている。スズキはTSCCという縦方向のタンブル流を発生させ燃焼効率を向上させていた。
吸排気バルブのオーバーラップ(吸排気バルブが同時に開く時間)が重要で、排気流速は吸気よりも早い。吸気の口径は大きければ良いと言うのでは無く、細い方が空気の流速は早くなり、入り口からバルブまでの距離が長ければ長いほど、吸気慣性が発生し、瞬発力は強くなる。この吸気慣性があるからこそ、オーバーラップ時に燃焼室に残った、燃焼ガスが吸気慣性で入ってきた空気により、押し出され効率よく混合気を吸い込むことができる。オーバーラップはカム形状により異なる。
エンジン 腰下 各部名称の解説
ピストンデッキクリアランス
Piston Deck Cearance ブロック面研と言われる部分。この部分を面研することで、圧縮比を向上させる。実はこの部分、エンジンの冷却に関わる重要なポイントです。チューンのノウハウが最も出る部分ではないでしょうか。
シリンダー
シリンダーにはクロスハッチといって、小さな傷が入っている。この傷によりオイルがシリンダーに馴染むようになっている。画像はクロスハッチをあえて消して磨き上げている途中の画像。こうすることで、レスポンスアップができる。ただしレース用エンジンでなく、街乗りを中心に使うことが前提のエンジンだと、オイル食いやブローバイが激しいエンジン仕様になります。私の場合、レース用エンジンのシリンダーは鏡面になるまで磨きます。
クランクシャフトの構造
給油穴
赤で丸がしてある部分から、オイルが流れてきて、クランクのイラストに赤の矢印で示す通り、ジャーナルの穴から給油されたオイルは油穴を通り、クランクピンの穴へと流れる。
クランクの芯だし
クランクの芯だしはやらないよりやった方がいいと私個人は思います。ですがクランクだけ芯だしをしても本当の意味でのバランスは取れていません。なぜなら、クランクケース側が画像の赤線の様に曲がっていれば、ケース側も修正が必要になるはずです。ケース側の修正はほぼ不可能ですから、クランクをケースに合わせる方法をとります。つまり各気筒ごとのバランスが必要になります。取り方は企業秘密ということで
メインジャーナル及びクランクピンチューニングのポイント
ジャーナル、クランクピンの部分は、上の画像を参考にしてください。左から、クランクラッピングと言われる加工を施したもの。真ん中は新品の状態。右は手作業であるコンパウンドを使い磨き上げている途中の画像。どれが一番鏡面になっているかは一目瞭然です。このジャーナル、クランクピンの部分を磨き上げる事で、摩擦抵抗を減らしレスポンスアップを狙います。摩擦抵抗が減ると、摩擦熱が減り、摩擦熱が減ると、油温の上昇も抑えられます。磨く際のコンパウンドはどんなコンパウンドでも良いわけで無く、私もコンパウンドを探すだけで、〇〇万円つぎ込みました。また油穴もバリ取りをし、バリ取りの仕方もペーパーを当て取ってしまうと、あまり良くありません。真ん中の油穴と左の油穴のバリの状態を見ると分かるでしょう。大変なめらかになっています。手作業でのラッピングは約1ヶ月ほどかかる作業です。
メタル
メタルと呼んだり、ベアリングと呼んだりする。嵌合(かんごう)マークがあり、クランクシャフトとクランクケース側に番号(記号)や色があり色と番号(記号)の組み合わせによりクランクシャフトとクランクケースとのクリアランスを決める。通常クリアランスは0.024~0.042mm程度3番ジャーナルだけは0.030~0.048mmと少し広いこの隙間にエンジンオイルが入り込み、クランクもしくはコンロッドが浮いた状態になる。画像に見える穴からオイルが噴き出し、クランクが浮き上がった状態になる。このベアリングにも一工夫することで、摩擦抵抗を減らしレスポンスアップが可能になります。画像は乗用車のもの。
ピストンの材質
ノーマルピストンの多くの材質はアルミ合金で出来ています。製造方法は鋳造(ちゅうぞう)です。鋳型(いがた)に溶けたアルミ合金を流し込み作られます。形は横から見ると、台形です。鍛造(たんぞう)ピストンという金属を熱してから数十トンもの圧力で鍛えたものから削り出したものを鍛造ピストンといいます。形状は樽型のものもあります。「バレル」といいます。
鋳造ピストンは鍛造と比較すると、膨張率が小さいため、エンジンが冷えた状態からエンジンを始動し、走り始めまでが容易です。その点鍛造は膨張率が大きいため、エンジンを暖めないと、走り出すことはできません。しかも膨張率が大きいため、シリンダーとピストンクリアランスは大きくとっている為に、ブローバイが多く発生し、エンジンオイルの寿命も短くなります。適正温度になならいと、エンジンはかぶったりしてエンジンが停止しやすいものです。
ピストンが溶けた。純正ノーマルだから溶けたと思われている方が多いようですが、溶ける原因を良く探さなければいけません。純正ピストンだから溶けたとか、オイルが原因で溶けたとか見かけますが、純正だから溶けることはあまりありません。オイルが原因で溶けることもあまりありません。原因の多くはノッキングです。ノッキングが起きると660℃の高温にもなります。鍛造ピストンの融点は鋳造とあまり変わりはしません。
だから純正ピストンで溶けるが鍛造だと溶けないというのは違う事になります。圧力に負けて、ピストンに穴が開いたと言うこととは違いますから、穴が開いた場合は強度のある鍛造が必要だということです。
A4032材は比較的膨張率が小さい事から、純正ノーマルピストンとして使われることも多いようです。ピストンを選ぶとき、「どんなエンジンにしたいのか?」を決めてから、ピストン選びをした方がいいでしょう。またピストンメーカーにより、パワーの出方も異なります。鍛造のA2618材などのピストンを使うと膨張率が大きいのでオイル食いやブローバイに悩まされることになります。
スプリントレースに使う一発エンジン仕様にするのか、耐久レース仕様にするのか、街乗りからサーキットまで楽しめる仕様にするのかで選ぶピストンも変わりますし、ブロックやヘッドの面研の量も変わります。するとパワーも変わります。あなたはどの仕様が好きですか?
ハイコンプピストン
ノーマルピストンよりもピストンの上面が盛り上がっているものをハイコンプピストンといいます。サーキットなど極限の世界だとハイコンプピストンは不利に働きます。なぜなら、盛り上がった分だけ、ピストンが重たくなるからです。9000回転でエンジンが回るときの重力は5000Gと言われています。つまり1gの物は、9000回転時5kgになるということです。1gでも軽くしたいのがピストンです。ハイコンプを入れるよりも、シリンダーヘッドを研磨し、シリンダーブロックを研磨して、狙った圧縮比にしたほうが同じ圧縮比であれば、ハイコンプにするよりもずっと有利だということです。その研磨量にチューナーのノウハウが存在します。
ピストンリング
トップリングは圧縮を保つ役目、セカンドリングはオイルをかき出す役目、オイルリングはシリンダーにオイルを供給する役目をする。チューンする際は、このリングにも一手間かけること。バリ取りを行うが、決してペーパーを当てないこと。ピストンリングは昔の物と比較すると、厚みは薄くなり、張力も弱くなっている。その為オイル管理が悪かったり、質の悪いものを使うとてきめんに摩耗してしまう。ピストンとリングの相性もあるので、これはTrial and errorを繰り返し見つけるしか方法はないでしょう。
コンロッド
コネクティングロッド。アメリカではRods(ロッズ)と呼びます。種類は豊富にあり、大きく分けてA断面、I断面。H断面とあります。同じ車種の同じもので比較しますと、H断面は強固ですが、A断面と比較すると重たくなります。I断面はその中間です。強固なロッズが必要になるのは、ドラッグレースで燃料はニトロを使っているようなハイパワーエンジンだとこんなH断面のロッズが必要になるかもしれませんね。このロッズの選び方もエンジン仕様を考えて選ぶ必要があります。